新規事業開発戦略を考える #2(2/4)-岩本 晴彦 ~大企業の管理職が直面する新規事業開発の課題と戦略構築のアプローチ

Professional Answers!シリーズ第1弾 – 大企業における新規事業開発編 –
“板挟みイノベーター” 〜 新規事業を成功に導く管理職のための羅針盤 〜

2024年12月のテーマは「新規事業開発戦略を考える」です。
新規事業を成功に導く管理職“板挟みイノベーター”からの質問に対して、4名の新規事業のプロフェッショナルに解決策を教えていただきました。

#1 新規事業開発戦略を考える ー石森 宏茂プロ編
#2 新規事業開発戦略を考える ー岩本 晴彦プロ編 本記事
#3 新規事業開発戦略を考える ー小林 舞 プロ編
#4 新規事業開発戦略を考える ー原口 悠哉プロ編

今月の”板挟みイノベーター”からの質問

経営企画部門の課長として、新規事業開発戦略の立案を任されました。しかし、経験不足の中で、どう進めるべきか悩んでいます。役員陣は大きな期待を寄せていますが、その期待が具体的に何なのか、はっきりしません。一方で、部下たちは戸惑いを隠せず、正直なところ私自身もその一人です。

板挟み状態で苦しんでいます。上からは「大胆な構想を」と言われ、下からは「現実的に可能なのか」という声。私には大きな変革を起こす権限はありませんが、何とかして前に進めたい。ただ、新規事業に取り組むこと以外、具体的な方向性が何も決まっていない状況で、どう戦略を立案すればよいのでしょうか。

経営企画部長からは「君に任せる」と言われていますが、それが重荷にもなっています。本部長や役員の期待に応えつつ、部下たちの不安も和らげ、実行可能な戦略を作り上げるには、どうすればいいのでしょうか。

限られた裁量の中で、どのように関係者の理解を得て、新規事業開発を軌道に乗せられるでしょうか。皆を納得させる戦略づくりのアプローチや、経験不足を補うための効果的な方法があれば、ぜひアドバイスいただきたいです。


第2回目は、
岩本 晴彦プロの回答です。

はじめに

新規事業開発にあたっては、戦略立案の段階だけに限らず、その後の推進に際しても、ご自身の経験不足や役員の期待、不安を抱える部下たちとの板挟みを感じることはよくあります。しかし、そこで一人で悩む必要はありません。なぜなら、大企業の多くでは、新規事業に携わる経験を持つ役員や社員が少ないからです。携わったことがある人が少ない、貴重な機会を得られたと捉えて、前向きに進めていきましょう。

実行可能でかつ斬新な戦略を描くには、社内外のリソースをフルに活用し、柔軟な発想でご自身や自社に不足している「ミッシングパーツ」を補完していくことが重要です。これにより、新規事業開発における屋台骨となる戦略を構築し、役員の期待に応えつつも、現場に納得される計画が作り上げられます。この記事では、新規事業開発の成功に向けた戦略構築と実行のアプローチを紹介します。

背景

新規事業開発では、特に大企業では、経営陣からの抽象的な期待と、現場からの現実的な懸念の間で、板挟みになることがよくあります。経営陣からは「今までにない大胆な構想を」と求められる一方で、現場からは「実行可能な範囲で現実的に進めてほしい」という声が上がります。このような中、新規事業開発の旗振りを担う部門の管理職はどの方向に進むべきか悩むことが多く、特に実行面での裁量が限られる部門では、この課題がより顕著です。

新規事業開発の戦略立案やその後の推進は、スピーディーに進めることが求められがちですが、実際には新規事業開発は未知の領域であり、自社に必要なスキルや経験、リソースが不足している場合が多く、なかなかスムーズには進まないことが多いです。また、役員の期待が抽象的で曖昧である場合には、方向性が定まらず、どこから手を付けるべきか不安に感じるのも自然なことです。経験不足や期待が不明瞭であるとき、成功する戦略を構築するためには、社内外の知見を最大限に活用し、関係する事業部門やコーポレート部門、グループ会社や外部企業と協働することが不可欠です。多様な視点を取り入れることで、実現可能な計画を練り上げ、具体的で実効性のある推進施策を打っていくことが可能になります。

私自身も大手電機メーカーで、グループ全体の新規事業開発の戦略構築や推進を担当した際、経営陣からの期待と現場からの実行性に関する声との間で苦しんだ経験があります。その際には、一人で抱え込まずに、役員や他部門、グループ会社、さらに社外の専門家と意見や知見を共有することで、多様な視点を取り入れた現実的な戦略立案と推進施策を実行できました。

具体例

●社内リソースの積極活用

新規事業開発を成功に導くには、社内外のリソースを積極的に活用することが欠かせません。特に社内での横の連携や、グループ会社との協働は、新規事業を創出していくうえで重要です。現場の知見を取り入れて実行可能な計画にすることで、組織の一体感が生まれ、新規事業を創出していくんだ、という同じ志を持つ実効的な仲間を作ます。これは、その後の推進局面において大きな力となります。

私の大手電機メーカーでの経験では、経営陣や他部門、グループ会社の関係者との協働が、戦略策定および推進施策の実行における重要なポイントでした。同社では持株会社制をとっていたため、持株会社が新規事業開発の旗を振ったとしても、顧客開発やソリューション開発に精通し、事業の中枢を担う、グループ各社の協力が得られなければ、施策の推進が困難になるため、関係者との協働が強く求められました。

具体的な施策として、まずはグループ各社にも役員クラスの推進責任者を配置し、推進部門を設立していただき、まずはコミュニケーションルートを確立しました。さらに、日々の相談や各社別の推進会議に加え、新規事業開発に関するグループ全体の推進会議を定期的に開催し、各社の取り組みや課題、悩みなどを共有する場を設けました。こうした会議を通じて、グループ全体で相互に解決策を検討し、お互いの進捗に合わせて戦略や施策を柔軟に調整していました。定期的な情報共有を行うことで、横の連携が強まり、戦略や施策に対する理解が深まります。こうした積み重ねにより、より強固な戦略の基盤を築くことが可能になります。

●社外リソースの積極活用

ご自身や社内で解決できない課題やスキルの不足に対しては、外部のプロフェッショナル人材や専門企業との協働が大きな力になります。社内に不足している視点やノウハウ、スキルを補完し、新しいアイデアや先進的な技術を取り入れることは、新規事業開発でも有効な手段です。

私が携わった大手電機メーカーでの新規事業の戦略構築でも、担当役員とのディスカッションを通じて戦略骨子を内製で作成し、さらに外部の事例調査や専門家へのヒアリングを行うことで肉付けを進めました。

自社に不足している「ミッシングパーツ」を社外から補完していくことは、その後の推進局面でも、重要な要素になります。大手電機メーカーでは、「新規事業提案制度」と「スタートアップ企業等とのオープンイノベーション」を戦略の推進施策として柱に据えていました。それぞれの推進施策の中でも、スポットコンサルティングや経済情報リサーチツールなどを導入し、外部の専門家や外部ツールから事業アイデアのブラッシュアップや戦略立案に役立つ情報を得ることで、社内の「ミッシングパーツ」を効果的に補完できました。こうしたアプローチにより、自社での経験不足を補ました。

● 経営陣との対話と関係者の理解を得る方法

新規事業の戦略を実行するためには、経営陣の期待を明確に把握し、関係者全員の協力を得ることが必要不可欠です。経営陣からの期待が漠然としている場合でも、具体的な目標やビジョンを確認し、戦略の方向性を明確にすることで、新規事業開発の旗振りを担う部門の管理職としての役割を果たます。

私の大手電機メーカーでの経験では、担当役員との距離が近かったこともあり、課題や悩みが生じた際には早い段階で密にコミュニケーションを取り、課題解決に向けた動きをとっていました。また、関係者の理解を得るために、定期的な進捗報告や中間成果物の共有が非常に効果的です。担当役員以外の経営陣には、各段階で適切なタイミングで経営会議などを通じて共有し、フィードバックを受けることで、関係者全員の理解と納得を得ていました。

こうした取り組みを通じて、社内外の関係者の意見を戦略・推進施策に反映させ、関係者全体で戦略をサポートする体制を構築することが可能になりました。

おわりに

新規事業開発の成功には、新規事業開発の旗振りを担う部門の管理職が一人で抱え込むことなく、社内外のリソースや知見を活用し、自社や自分の「ミッシングパーツ」を補完しながら実現可能な戦略や施策を構築・実行することが不可欠です。経営陣や関係者の理解と共感を得るために、柔軟な発想と挑戦する姿勢を大切にし、役員からの期待に応え、部下の不安も和らげることで、企業全体で未来を切り拓き、新規事業開発の成功を実現しましょう。

 

<関連記事>
2024年11月 学びながら進める新規事業開発の全体像とは#1  -石森 宏茂
2024年11月 学びながら進める新規事業開発の全体像とは#2  -石森 宏茂