“アイデア創出”と“手段としての市場調査”について考える(4/4)-村松 龍仁 ~未来を切り開く、新規事業立ち上げの攻略について

Professional Answers!シリーズ第1弾 – 大企業における新規事業開発編 –
“板挟みイノベーター” 〜 新規事業を成功に導く管理職のための羅針盤 〜

2025年2月のテーマは「“アイデア創出”と“手段としての市場調査”について考える」です。
新規事業を成功に導く管理職“板挟みイノベーター”からの質問に対して、4名の新規事業のプロフェッショナルに解決策を教えていただきました。

#1 “アイデア創出”と“手段としての市場調査”について考える ー石森 宏茂プロ編  
#2 “アイデア創出”と“手段としての市場調査”について考える ー岩本 晴彦プロ編
#3 “アイデア創出”と“手段としての市場調査”について考える ー原口 悠哉プロ編
#4 “アイデア創出”と“手段としての市場調査”について考える ー村松 龍仁プロ編  本記事

今月の”板挟みイノベーター”からの質問

「新規事業開発プロジェクトでアイデア創出の段階に入りましたが、板挟み状態で困っています。本部長は革新的なアイデアを求め、部長は堅実で実現可能な案を望んでいます。一方、社長は自社の強みを生かすべきだと言いますが、個人的には市場のニーズとのギャップも感じています。このような状況で、組織の調和を乱さずに進めるべき方向性を見いだすのに苦心しています。

メンバーは調査業務に不慣れで、私自身も新規事業の経験が浅いです。それでも、上司たちは短期間での成果を期待しています。限られたリソースと経験の中で、どうすれば効果的な市場調査を行い、説得力のあるアイデアを創出できるでしょうか?できれば、当社や業界の過去の成功事例を参考にしながら、慎重に進めていきたいのですが…。

また、自社の強みを生かすべきか、それとも全く新しい分野に挑戦すべきか、判断に迷っています。既存事業部門からは「本業に集中すべき」という声も聞こえてきて…。急激な方向転換はリスクが高そうですが、かといって現状維持では競争力を失いかねません。

限られた権限の中で、上司たちの期待に応えつつ、組織の安定性を損なわないよう配慮しながら、どのようにプロジェクトを進めるべきでしょうか?」

第4回目は、村松 龍仁プロの回答です。

1.はじめに

会社から「君はこれから新規事業の担当です。」と言われて、もしその経験がなかったら、何から始めたらいいかまず悩むと思います。何から始めたらいいのか・・・

まずは二つ質問を用意してみました。

第1の質問:なぜ新規事業をやらなければいけないのか?

新しいことをやる場合に多くはその背景に課題があります。新規事業の場合、市場自体の成長がが鈍化したことで自社の売上成長が鈍化してきた、とか、競合にシェアを取られ始めて現実的な対抗策がなく、このままだと売り上げがどんどん減少してしまうとか、現在販売している商品やサービスを差別化するための何らかの武器が必要だとかです。

ということは、この課題を新規事業で解決することが新規事業のゴールになります。

そのゴールを明確にすることがまず第1に考えないといけないことです。

第2の質問:あなたの会社はなぜその新規事業をやるのか?

要は自分の会社の強みがどこにあるのかをしっかり認識したうえで、この強みを生かすことができる新規事業は開始した後の難易度をさげることが可能となります。この強みは自分が考える強みではなく、市場や顧客に評価された結果、強みとなっているものを指します。

例えば、自社の既存顧客数は他社よりも多い、この顧客基盤を活かして今まで扱っていない商材を新規事業とする、とか、日本の市場で顧客視点で差別化がはかれて成功している商品を異なる市場で販売するとか、このような場合だとなぜその新規事業やるのかが明確になり、始める前から何となくいけそうだという印象を持てると思います。(それでも本当にうまくいかないものなのですが・・・)

この2点が明確になったら、これをベースに作成した新規事業計画は絶対にうまくいきます・・・

なんてことは言えませんが、最低限これだけは明確にして進めないと途中で頓挫する可能性が高まります。

2.新規事業の企画

2-1. 市場調査とニーズ分析

市場調査とニーズ分析は、新規事業の成功を左右する重要な第1歩です。この段階では、潜在的な市場規模、顧客のニーズ、市場トレンド、そして競合状況を徹底的に調査します。定量的データ(市場規模、成長率など)と定性的データ(顧客の声、行動パターンなど)の両方を収集し、分析することが重要です。

オンライン調査、フォーカスグループ、インタビュー、既存の市場レポートなど、多様な手法を用いて情報を集めます。この過程で、自社の強みと市場機会を見いだすことができます。

BtoC系の事業の場合は、今はかなり低価格で実施できるオンライン調査もあるのでかなりおすすめです。私は仮説が出るたびに整理して、とにかくオンライン調査で検証することを繰り返しました。

また、カラコンの新規事業を開始する際には、50歳過ぎのおっさんからもっとも遠い商材でもあったため、ターゲットとなる複数のペルソナをしっかり定義するためにかなり調査を詳しく行いました。しっかり定義したことはよかったのですが、ブルーオーシャン狙いで、従来のコンタクトレンズユーザーではなく、言ってみれば視力のいい人をターゲットとしたため、結局カラコンをしてくれなく、この障壁を超えることができませんでした。黒目を大きくきれいにしたいということが絶対解決したい課題ではなかったことが事業を開始してから判明したという恐ろしい事例です。

この失敗から学べる教訓は、表面的なニーズだけでなく、潜在的なニーズや真の顧客価値や課題を深く理解することの重要性です。また、市場調査結果をうのみにせず、批判的に分析し、複数の視点から検証することも大切です。

 

2-2. アイデア創出とブレインストーミング

新規事業のアイデア創出は、創造性と分析力が求められる大変だけれど楽しい過程です。ブレインストーミングセッションを通じて、チームの多様な視点や経験を活かし、革新的なアイデアを生み出します。この段階では、「質より量」を重視し、どんなアイデアでも否定せずに出し合うことが重要です。

効果的なブレインストーミングのためには、以下のポイントに注意しましょう。

  1. 多様なバックグラウンドを持つメンバーを集める
  2. うまくいくかどうかの判断はせずにアイデアを自由に出し合う
  3. 他者のアイデアに便乗し、発展させる

ブレストでは、多様性を担保することが重要です。マーケティング、デザイン、顧客サービスなど、さまざまな部門からの参加を促すことで、より包括的で実現可能なアイデアを生み出せる可能性が高まります。また、外部の専門家や潜在的顧客を招いてブレインストーミングを行うのも効果的です。

2-3. 競合分析と差別化戦略

競合分析は、市場における自社の位置づけを明確にし、効果的な差別化戦略を立てるために不可欠です。主要な競合他社の商品・サービス、価格戦略、どんな販売をしているかやマーケティング手法、強み・弱みを徹底的に分析します。これにより、ニッチ市場や、競合が見落としている顧客ニーズを発見できる可能性もありますし、自社の商品・サービスのどこをとがらせるべきなのか、またマーケティング手法や販売方法をどうひねるのか、とかしっかり考えることができます。

簡単ではありませんが、差別化戦略を立てる際は、以下の点を考慮します。

  1. 独自の価値提案
  2. 優れた品質やパフォーマンス
  3. イノベーティブな技術や機能
  4. 卓越した顧客サービス
  5. ブランドイメージや情緒的つながり

 

競合分析は重要ですが、それにとらわれすぎないことです。時には、業界の常識を覆すような大胆な発想が必要です。また、競合との違いを作り出すことに注力するあまり、顧客の本当のニーズを見失わないよう注意が必要です。

大胆な発想がベースの案は、過去誰がやって失敗して今は誰もやっていないこともあるため、テストマーケができるようであれば、先に試してみることも失敗を回避する手段です。

2-4. ターゲット顧客の明確化

新規事業の成功には、ターゲット顧客を明確に定義することが極めて重要です。ターゲット顧客を特定することで、製品やサービスの開発、マーケティング戦略、販売アプローチを効果的に調整できます。

ターゲット顧客を明確化する際は、以下の要素を考慮します。

  1. デモグラフィック特性(年齢、性別、収入、職業など)
  2. サイコグラフィック特性(価値観、ライフスタイル、興味関心など)
  3. 行動特性(購買習慣、ブランドロイヤリティーなど)
  4. ニーズと課題(※課題は課題だろうなではなく、ターゲットが絶対解決しないといけない課題を見つけることが重要です)

ターゲット顧客の設定を誤ると、事業全体に大きな影響を与える可能性があり、全てがこの設定に基づいて進められるため、後で取り返しのつかないことになる可能性もあります。

重要なことは、先入観や固定観念にとらわれずに、また仮説はしっかり検証しつつ、実際のデータや顧客フィードバックに基づいてターゲット顧客を柔軟に再定義することです。もし、初期のターゲット設定が適切でなかったことが判明した場合は、迅速に軌道修正する勇気も必要です。

2-5. 事業コンセプト・ミッションステートメントの策定

事業コンセプトは、新規事業の核心部分を簡潔に表現したものです。優れた事業コンセプトは、顧客に提供する価値、ビジネスモデル、そして競合との差別化ポイントを明確に示します。これは、投資家、従業員、そして潜在的な顧客に事業の魅力を伝えるための重要なツールとなります。

ミッションステートメント

  1. 解決すべき課題(絶対に解決しないといけない課題、課題だけれど解決しなくてもいいものは課題ではありません)
  2. ターゲット顧客
  3. サービスカテゴリー
  4. この商品で解決できること、どうやって解決するか
  5. 競合商品(他社商品と違ってどうやってかいけつするか)

 

よくある失敗例は、抽象的すぎて、この後の具体的な事業計画や収益モデルの策定にうまく結びつけられなくなってしまうことです。重要なことは、具体的で実現可能なものでなければならないということです。

2-6. 売上モデルの検討

売上モデルの作成では、一商品・サービスがどのようにして利益を生み出すかを定量的に算定します。適切かつ性格な売上モデルを作ることは、事業の持続可能性と成長性を大きく左右します。

売上モデルの例:

  1. 商品・サービスの標準モデル
  2. 売上原価となる項目を網羅的に明確にする
  3. 割引やポイントの検討
  4. マーケティング・広告手法の検討
  5. 利益試算・損益分岐点の計算

 

この計算を間違えると、売り上げが好調でも思った利益が出ない、損益分岐点を超えたのに赤字のまま、といった収益化の道筋が不明確となってしまい、最終的に資金が枯渇し、事業継続が困難になってしまうことも起きてしまいます。

前提や算定基礎の待ちがないかを何回も確認して、売上モデルの計算に誤りがないかしっかり確認することが重要です。

2-7. 初期的な実現可能性の評価

新規事業の企画段階の最後のステップとして、初期的な実現可能性の評価を行います。これは、事業アイデアが技術的、財務的、そして市場的に実現可能かどうかを検証するプロセスです。

実現可能性評価の主な観点

  1. 技術的実現可能性
  2. 市場の受容性
  3. 財務的実現可能性
  4. 法的・規制的な障壁
  5. 人材・リソースの利用可能性

 

この段階では、詳細な分析よりも、重大な障害や致命的な欠陥がないかを確認することが主な目的です。実現可能性の評価を甘く見ると、後々大きな問題に発展する可能性があります。実現可能性の評価は、技術面だけでなく、サプライチェーン、インフラ、規制環境など、幅広い観点から行う必要があるということです。また、楽観的なシナリオだけでなく、最悪のケースも想定して評価することが重要です。

初期的な実現可能性評価は、プロジェクトの続行、修正、または中止を判断する重要な分岐点ともなります。この段階で潜在的な問題を特定し、対策を講じることで、後の段階でのリスクとコストを大幅に削減できる可能性があります。

 

これで企画はバッチリ!

2024年11月 学びながら進める新規事業開発の全体像とは#1 -石森 宏茂
2024年11月 学びながら進める新規事業開発の全体像とは#2 -石森 宏茂
2024年12月 新規事業開発戦略を考える#1 -石森 宏茂
2024年12月 新規事業開発戦略を考える#2 -岩本 晴彦
2024年12月 新規事業開発戦略を考える#3 -小林 舞
2024年12月 新規事業開発戦略を考える#4 -原口 悠哉
2025年01月 新規事業開発実現のための組織人事制度を考える #1 -石森 宏茂 
2025年01月 新規事業開発実現のための組織人事制度を考える#2 -岩本 晴彦
2025年01月 新規事業開発実現のための組織人事制度を考える#3 -原口 悠哉