Professional Answers!シリーズ第1弾 – 大企業における新規事業開発編 –
“板挟みイノベーター” 〜 新規事業を成功に導く管理職のための羅針盤
2025年8月のテーマは「撤退判断と再起について考える」です。
新規事業を成功に導く管理職“板挟みイノベーター”からの質問に対して、4名の新規事業のプロフェッショナルに解決策を教えていただきました。
#1 撤退判断と再起について考える ー石森 宏茂プロ編 本記事
#2 撤退判断と再起について考える ー岩本 晴彦プロ編
#3 撤退判断と再起について考える ー原口 悠哉プロ編
#4 撤退判断と再起について考える ー村松 龍仁プロ編
今月の”板挟みイノベーター”からの質問
新規事業プロジェクト立ち上げから3年近くが経ち、現在は事業責任者として一定の決裁権を持っていますが、正直なところ悩んでいます。コロナ禍の影響もあり、思うような成長が見込めず、社内では撤退の声も聞こえ始めています。立ち上げ時の担当課長から事業責任者になった身として、何とか軌道に乗せたいという思いは強いのですが、具体的な打開策を見出せずにいます。
上層部は比較的チャレンジに寛容であり、成長への期待がある一方で、現場のメンバーからは、後ろ向きな声も増えています。この板挟み状態で、事業の継続か撤退かという重大な決断を迫られそうで、プレッシャーを感じています。撤退という選択肢も頭をよぎりますが、これまでの投資や関わってきた人々のことを考えると、簡単には決断できません。
他部門との協力でシナジーを生み出したいところですが、各部門も厳しい状況の中、どこまで踏み込んで協力を求めるべきか迷っています。かといって、このまま現状維持を続けるのも risk が高そうで…。
万が一、撤退という決断を下す場合、どのような判断基準で決めればよいのでしょうか。また、関係者への説明責任をどう果たし、チームのモチベーションを維持しつつ、次の挑戦に向けた前向きな雰囲気をどう作ればいいでしょうか。
大きな方針転換も選択肢の一つではありますが、今までのやり方を急に変えると周りが混乱しそうで躊躇してしまいます。かといって、何も変えないわけにもいかず…。。
この難しい局面を乗り越え、何とか事業を軌道に乗せたい。でも、最悪の場合の exit strategy も考えながら進めたい。この相反する思いの中で、どのようにバランスを取ればよいでしょうか。
第1回目は、石森 宏茂プロの回答です。
はじめに――“どちらにも振り切れない”現場のリアル
継続か撤退か、心が揺れるとき
新規事業に挑み、気づけば3年。最初は情熱で突っ走ってきたものの、環境変化や数字の伸び悩みで「撤退か、継続か」という岐路がやってきます。
経営陣は「挑戦そのものに価値がある」と期待を寄せつつも、成果を見極め始めている。現場は疲弊し、後ろ向きな空気も増える。そのどちらにも全力で応えたいと思いながら、自分自身も「これまでの投資や仲間を思うと簡単に引けない」「でも、このまま進んで大丈夫なのか」と心が揺れる…。
そんな板挟みのど真ん中にいるリーダーは、孤独になりやすい。でも、その“迷い”や“悩み”を、次へのエネルギーに変える発想こそ、板挟みイノベーターの真骨頂です。
撤退判断は「先に物差しを決める」ことから
感情に流されず、基準を可視化する
どんなプロジェクトにも「もう一歩頑張れば…」と感情に引っ張られる瞬間が来ます。だからこそ、事業の継続・撤退を検討する時は、あらかじめ「ここまで来たら検証・縮小・撤退を考える」という基準を事前に明文化しておくことが、後悔しないための王道です。
たとえば、
- 主要KPIが一定期間連続して目標未達なら見直す
- 社内で“投資回収の見込みが立たない”と共通認識できた場合に一度ゼロベースで議論する
- 戦略や市場構造の大きな変化が起きたタイミングで方向転換を検討する
こういった“物差し”を、できれば複数の視点(現場・他部門・経営・外部パートナー等)で納得感を持って作っておくことが重要です。
相談の粒度も「全社巻き込み」より“小さな対話”から
判断が重いほど「自分一人で決めねば…」と抱え込みがちですが、過去の撤退経験者や他部門リーダーを交えた“小さな対話”を早期に始めることで、自分の視野の偏りや思い込みを防げます。また、現状維持を選ぶことのリスク(投資の消耗や組織のモチベーション低下)についても率直に議論し、安易な“先延ばし”でダメージが大きくなる危険も可視化してください。
失敗を“学び”として組織に残す
犯人探しではなく「仮説の検証」で振り返る
撤退・縮小は責任論に傾きがちですが、それでは組織の再起力は育ちません。
むしろ、「どこで仮説がズレたのか」「何を見抜けなかったか」を、KPI・市場・競合・社内体制といった観点で分解し、
- 「なぜこの施策は効果が出なかったのか」
- 「どの時点でどんなサインを見落としたのか」
といった“仮説検証”の文化を大切にしましょう。
この過程を定期的な報告会や社内Wikiで共有し、失敗談を資産化することで、「撤退=敗北」ではなく「再挑戦の基盤」に変える土壌が生まれます。
人材再配置と再起のための空気づくり
キャリアのリセットではなく“アップデート”に
事業が終わる、縮小される――そんな時ほどメンバーの不安は大きくなります。
リーダーが意識したいのは、「この挑戦がキャリアにどう生きるか」を具体的に伝え、
- 各自の得意分野や成長をフィードバックし、異動や新プロジェクトのチャンスを積極的に紹介する
- 挑戦した経験そのものを“価値ある専門性”として評価する文化を強調する
「この経験が次の一歩の武器になる」と自信を持たせ、失敗が“キャリアの傷”ではなく“進化の証し”と伝えていくことが再起の第一歩です。
説明責任と「再起ストーリー」の語り方
事実・判断基準・未来志向をセットで語る
撤退や大転換には必ず、上層部や他部門、外部パートナーへの説明責任が伴います。ただ「失敗しました」と謝るだけでは信頼は残りません。
ポイントは、
- これまでのチャレンジで得られた成果や学びを率直に伝える
- 撤退や転換の判断基準・タイミングを透明に開示する
- 今回の経験やネットワーク・ノウハウを「次の挑戦への投資」として位置づける
説明の場が「プロジェクトの終わり」ではなく、「組織が進化し始める起点」になるよう意識しましょう。
方針転換や協力要請は「巻き込み型」で
周囲の混乱を防ぎ、再挑戦の芽を育てる
独断で撤退や路線変更を決めると、現場や他部門は不信感を持ちます。
だからこそ、
- 小さな勉強会や定例会で迷いや悩みも共有する
- 他部門に「今回の気付きや改善点だけ、1回だけ協力してほしい」など粒度を絞った相談を行う
- 一部で成功した巻き込み・協力例があればすぐにフィードバックして称賛し、周囲を“次の挑戦”へ引き込む
こうした共創型の変化を仕掛けることで、組織の空気が少しずつ前向きに転換していきます。
まとめ――“板挟みリーダー”が再起のモデルになる
撤退も再起も、板挟み状態で「どちらにも全力で向き合う」ことこそイノベーターの価値です。
- 感情ではなく明文化した基準で判断する
- 失敗は仮説の検証・学びとして資産化する
- キャリアを断ち切らず進化の物語に変える
- 説明責任は“次への起点”として語る
- 方針転換も巻き込み型で、全員の納得をつくる
この積み重ねが、あなたの現場と組織を“進化し続ける集団”へ押し上げていきます。
迷いも悩みもチームの力でシェアし、板挟みを逆手にした再起の道をともに切り開きましょう。
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