プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える #2(2/4)-岩本 晴彦 経営陣を動かす“想定外”の相談術~新規事業の現場から学んだ、伝え方と突破のヒント

Professional Answers!シリーズ第1弾 – 大企業における新規事業開発編 –
“板挟みイノベーター” 〜 新規事業を成功に導く管理職のための羅針盤 

2025年6月のテーマは「プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える」です。新規事業を成功に導く管理職“板挟みイノベーター”からの質問に対して、4名の新規事業のプロフェッショナルに解決策を教えていただきました。

#1 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー石森 宏茂プロ編
#2 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー岩本 晴彦プロ編  本記事
#3 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー原口 悠哉プロ編
#4 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー村松 龍仁プロ編

今月の”板挟みイノベーター”からの質問

新規事業開発プロジェクトのリーダーとして、厳しい状況に直面しています。事業計画通りに進んでおらず、追加のリソース投資、特に予算が必要になっています。MVP検証の過程で、プロダクト改善に必要な開発費や、円安によるサーバー代の高騰が想定外に膨らんでしまいました。

経営陣からは具体的な成果を求められていますが、新規事業の不確実性と、このような外部要因の影響をどう説明すればいいのか悩んでいます。大きな変更を提案するのはリスクが高そうで、現状維持が安全かもしれません。ただ、このままでは問題の先送りにしかならない気もして…。

現場のチームは頑張っていますが、予算不足で選べない選択肢も多くなってしまい、士気が下がっています。かといって、追加予算の要求は、プロジェクトの存続にも関わる可能性があり、慎重にならざるを得ません。

他部門との協力も検討しましたが、各部門も予算的に余裕がなく、協力を得るのは難しそうです。それに、部門間の壁も厚く、簡単には動けそうにありません。

このような状況で、どうすれば経営陣を刺激せず、必要最小限のリソースを確保しつつ、現実的な期待値の調整を行えるでしょうか?また、組織の慣習を大きく壊すことなく、他部門の理解を得る方法はありますか?

第2回目は、岩本 晴彦プロの回答です。

はじめに

新規事業において「予定通りに進む」ことの方がまれだと感じた経験はないでしょうか。仮説の変化、顧客の要望変化、外部環境の急変。こうした“想定外”は、新規事業という新たな価値を創出する過程において避けられない通過点です。

しかし、プロジェクトリーダーとして最も頭を悩ませるのは、その「想定外」が経営陣への説明責任や、追加リソースの獲得交渉に直結する点です。説明を誤れば、支援を得るどころか、プロジェクト自体の信頼性が揺らぐリスクすらあります。慎重にならざるを得ない場面で、いかにして経営陣の理解と共感を得るか。本稿では、筆者自身が新規事業に携わる中で直面した経験をもとに、現実的な打ち手をご紹介します。

新規事業における“想定外”の宿命

新規事業では、プロダクトの仮説検証の過程で顧客のニーズや課題が次々に変化します。これはむしろ健全な進化のプロセスであり、仮説に柔軟性を持たせながら検証することこそが成功への近道です。外部環境もまた、事業の進行に大きな影響を与えます。たとえば、質問者が挙げている為替変動によるクラウド基盤の価格改定や、法規制の変化、パートナー企業の戦略転換などは、チームや自社の努力だけではコントロールできません。

一方、特に歴史ある大企業では、「前例主義」や「失敗回避の文化」が根強く残っています。経営陣は、全社的な限られたリソースをどう配分するかという視点を持っており、既存事業と比べてリスクの高い新規事業への追加投資は慎重にならざるを得ません。想定外が起こる必然と、それらを受け入れにくい文化とのギャップを放置すれば、“説明不十分”と見なされ、リソースを失う結果にもつながります。

問題の先送りがもたらすリスク

「現状維持」がもっともリスクの少ない選択肢のように思えるときもあるでしょう。しかし実際には、問題の先送りが組織内の信頼を損ない、将来的な選択肢の幅を狭めてしまう可能性もあります。特に新規事業では、スピード感と判断のタイミングが成果を大きく左右します。

意思決定が遅れたことでリスクが“確定”し、影響範囲が拡大してしまうことも珍しくありません。また、リーダーの迷いや判断の先送りは、チームメンバーの士気にも影響します。「判断が遅い」、「頑張っても報われない」という不満が蓄積されると、優秀な人材ほどプロジェクトから離れていくリスクがあります。

だからこそ、問題が明らかになった時点で、次の項目などを整理し、経営陣に誠実に伝えることが極めて重要です。

 現状:どこまで進んでいて、何がうまくいっていないのか
 課題:障害となっている要因とその背景
 打ち手:どのような対策が考えられるか
 必要リソース:何がどれだけ不足しているか
 撤退・ピボット基準:成功と失敗の判断軸をどこに置くか

数字だけでは伝わらない理由

経営陣への説明でよくある誤りは、稟議書に数値データだけを並べてしまうことです。追加の費用や期間を淡々と記述しても、計画未達の印象ばかりが先行し、スムーズな決裁にはつながりません。

必要なのは、「なぜ今このタイミングでリソースを投入すべきか」という納得感のあるストーリーです。数値はその根拠として活用するものであり、主張の代わりにはなりません。経営陣が「投資に値する」と感じるのは、合理性と将来性がセットになったときです。

ストーリーは、課題→行動→成果→次の一手という流れで構成すると伝わりやすくなります。たとえば「ある顧客の声を起点にしたプロダクト改善の必要性」、「それに対してどのように対応するか」、「初期成果としてはどんなものが期待されるか」といった具体的なストーリーは、経営陣の想像力を喚起し、単なる数字以上の説得力を生み出します。

プロジェクト現場からの実例

筆者が担当していたある新規事業で、PoC(概念実証)で一定の成果を出した後、MVP検証フェーズに移行しました。しかし、次のような“想定外”が立て続けに発生したのです。

(1)顧客要求の変化
MVP検証のなかで、当初の想定を上回る精度やバッテリースペックの向上など、追加の技術要件が顧客から求められました。機能改善には相応の開発リソースが必要で、初期計画では賄いきれない規模となっていました。

(2)経営陣への伝え方の工夫
このような状況に直面した際、筆者のチームでは、以下のようにして経営陣への説明を設計しました。

 ・構造化された説明資料の準備
 「現状」「課題」「打ち手」「必要リソース」「撤退・ピボット基準」を1枚にまとめ、複雑な状況を構造化して提示。感情論に頼らず、客観性と整理力をもって意思決定を支える構成としました。

 ・成長ストーリーの提示
 PoCによる初期仮説の実証、顧客ヒアリング結果などに加え、今後の拡張可能性として、新たなチャネルを活用した展開構想をデータと共に提示しました。「次の成長の種」があることが、追加投資の妥当性を後押しします。

実際、チーム内でも「このタイミングで再度稟議を出すのはリスクが高いのでは」といった慎重論もありました。しかし、「見送れば何を失うのか」、「今動けば何が得られるのか」を議論し、未来起点で再構成した提案が突破口となりました。

(3)実際の成果
この結果、以下のような成果を得ることができました。

 ・追加予算の承認獲得:プロジェクト継続に必要な金額の承認
 ・時間的猶予の確保:マーケティング検証の後ろ倒しを認めてもらい、実行の幅が広がった
 ・撤退基準の合意:販売数の明確なKPIを設定し、一定期間で未達ならピボットするという合意形成

これらのプロセスを経ることで経営陣との信頼関係も深まり、その後の対話の質が高まりました。結果的に、チーム内にもリスクをオープンに議論できる空気が生まれました。

おわりに

新規事業の現場では、計画のズレや環境変化は避けられません。しかし、それを「失敗」や「問題」と捉えるのではなく、むしろ「意思決定のタイミングがきた」と前向きに受け止めることが重要です。

課題を可視化し、整理し、ストーリーを持って伝えることで、経営陣との信頼関係を築くことができます。前例がない、予算に余裕がない、協力が得られない、そうした“できない理由”を超える突破口は、現場のリーダー自身の「伝え方」にこそあるのです。

最後に、もし問題に直面していたら、自身に問いかけてみてください。

「いま抱えている問題を、先送りするのではなく、行動に移すとしたら、誰に何を伝える必要があるか?」

その一歩が、プロジェクトの未来と、組織の文化を変えるきっかけになるかもしれません。本コラムが、新規事業を推進する皆さまの一助になれば幸いです。

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