プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える #4(4/4)-村松 龍仁 ~最前線のリアル! 新規事業の想定外相談にどう対処し、経営陣に伝えるか

Professional Answers!シリーズ第1弾 – 大企業における新規事業開発編 –
“板挟みイノベーター” 〜 新規事業を成功に導く管理職のための羅針盤 

2025年6月のテーマは「プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える」です。新規事業を成功に導く管理職“板挟みイノベーター”からの質問に対して、4名の新規事業のプロフェッショナルに解決策を教えていただきました。

#1 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー石森 宏茂プロ編
#2 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー岩本 晴彦プロ編
#3 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー原口 悠哉プロ編
#4 プロジェクト進行中の経営陣への想定外の相談について考える ー村松 龍仁プロ編  本記事

今月の”板挟みイノベーター”からの質問

新規事業開発プロジェクトのリーダーとして、厳しい状況に直面しています。事業計画通りに進んでおらず、追加のリソース投資、特に予算が必要になっています。MVP検証の過程で、プロダクト改善に必要な開発費や、円安によるサーバー代の高騰が想定外に膨らんでしまいました。

経営陣からは具体的な成果を求められていますが、新規事業の不確実性と、このような外部要因の影響をどう説明すればいいのか悩んでいます。大きな変更を提案するのはリスクが高そうで、現状維持が安全かもしれません。ただ、このままでは問題の先送りにしかならない気もして…。

現場のチームは頑張っていますが、予算不足で選べない選択肢も多くなってしまい、士気が下がっています。かといって、追加予算の要求は、プロジェクトの存続にも関わる可能性があり、慎重にならざるを得ません。

他部門との協力も検討しましたが、各部門も予算的に余裕がなく、協力を得るのは難しそうです。それに、部門間の壁も厚く、簡単には動けそうにありません。

このような状況で、どうすれば経営陣を刺激せず、必要最小限のリソースを確保しつつ、現実的な期待値の調整を行えるでしょうか?また、組織の慣習を大きく壊すことなく、他部門の理解を得る方法はありますか

第4回目は、村松 龍仁プロの回答です。

新規事業プロジェクト進行中、「この問題、どう経営陣に報告しよう…」と頭を抱えた経験はありませんか? 想定外のトラブルは新規事業につきものですが、その報告一つでプロジェクトの命運が分かれることも。この記事では、これまでの5件以上の新規事業経験から得られた「想定外相談」のパターンと、経営層への報告者が意識すべき具体的なポイントを深掘りします。この記事を読めば、次に想定外に遭遇したとき、冷静に対応するヒントが得られるはずです。

新規事業は想定外の連続。予算オーバー、遅延、顧客反応のズレなど、トラブルは避けられません。重要なのは、それを早期に捉え、経営陣に適切に報告すること。本記事では、実体験に基づき、想定外相談のリアル、報告者が意識すべきファクト整理・代替案提示・中長期視点の重要性、そして冷静さ・正直さといった心構えを解説。想定外を乗り越え、事業を前進させるための報告術を伝授します。

 

はじめに

新規事業を立ち上げる、言うのは簡単ですが、実際はハプニングのオンパレードです。私自身、これまで5件以上の新規事業にチャレンジしてきましたが、どんな状況であれ、必ず「えっ、マジで!?」っていうことが起きました。新規事業は、まるでトラブルの宝箱みたいなものです。では、それにどう立ち向かうか? ここが新規事業責任者の本当の腕のみせどころです。

この記事では、そんな「想定外の課題」とどう付き合うかについて、リアルな体験を交えながら、ちょっと肩の力を抜きつつ真剣に考えていこうと思います。

読んでいただいたあなたが次に想定外に遭遇したとき、「ああ、これか」って少しだけニヤリとできるようになったら最高です。

新規事業における「想定外相談」とは何か?

新規事業の進行中には、事前にどれだけ計画を練ったとしても、必ず「想定外の相談」が持ち込まれる場面が出てきます。この「想定外相談」とは、計画段階では想定していなかった問題や要望について、現場や担当者から経営陣に対して報告・相談がなされるケースを指します。

具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 予算オーバー:想定よりも開発コストやマーケティング費用がかさみ、追加予算を要請するケース
  • スケジュール遅延:開発やリリースアサインが当初計画より大幅に遅れ、事業の開始が遅延してしまうケース
  • 顧客反応のズレ:市場調査では好感触だったにも関わらず、実際のユーザーからは期待した反応が得られないケース(これが一番きつい!)
  • リソース不足:プロジェクト遂行に必要な人員やスキルが想定より不足し、追加採用や外部支援を検討せざるを得ないケース、これによる遅延が発生するケース

こうした相談は、早期に対処できればリカバリー可能ですが、対応を誤ると事業全体の進捗に大きな影響を与えかねません。

では、なぜ新規事業ではこれほど「想定外」が頻発するのでしょうか?最大の理由は、新規事業が仮説検証型で進行する特性にあります。仮説検証型とは、あらかじめ仮説を立てて市場やユーザーにぶつけ、その反応を見ながら修正・改善していくアプローチを指します。つまり、最初から完璧な正解がない前提でスタートしているため、常に「現場からのフィードバックに応じて軌道修正する」ことが求められます。

 

この特性ゆえに、

  • 想定通りにいかないこと
  • 進めながら新しい問題が見つかること
  • チームの状況が変わること

は、むしろ“正常な現象”とも言えます。新規事業において想定外が出ること自体を悲観する必要はありません。むしろ、どのように受け止め、どのように次のアクションにつなげるかが重要なのです。

 

自身のリアル体験:想定外相談の4パターン

これまでの実務経験から、特に印象に残っている「想定外相談」のパターンを5つ紹介します。

  • 資金不足の深刻化:タイで買収した事業を進めていた際、計画していた黒字化が半年以上遅延し、資金繰りが徐々に悪化。急遽、追加調達のために本社にその後の成長戦略を説明・説得し、なんとか食いつなげた経験があります。
  • 仕様変更による開発遅延:カラーコンタクトレンズの事業の準備段階で、こだわりの追加要件が相次ぎ、アジャイル開発していたことからスケジュールが数ヶ月遅延。株主へ状況報告と遅延のリカバリーに追われました。
  • 市場ニーズとのズレ:同じくカラーコンタクトレンズ事業開業後、とことんまでリサーチを行い、商品開発・マーケティング・販売プラットフォームの開発を徹底的にこだわって行い事業を開始し、サンプルのマーケティングはかなり順調だったが、そこから実際の購買に結びつかず反応が鈍く、商品の見直しと販売戦略を刷新したこともありました。
  • インドネシアで開始したオンラインサービスでは、競合がいなく完全なブルーオーシャン市場であったが、まだ市場でのサービス価値の認識度合いが低く、啓蒙・マーケティングの強化から行うこととなったが、結局最後は想定していなかったユーザーが大部分を占めることとなり、それに合ったサービス範囲に拡大することで売り上げが順調に拡大し黒字化を達成したことがありました。

報告者として意識すべき3つの対応軸

想定外相談を経営層に持ち込む際、私たち報告者側が意識すべきポイントは以下の3つです。それぞれについて、もう一歩踏み込んで考えてみましょう。

  • 冷静なファクトチェック:まず、何が事実で、何が臆測かを整理します。可能な限り数値データやエビデンス(証拠資料)をそろえ、感情を排除した冷静な説明が求められます。例えば、「売り上げが落ちた」ではなく「先月比で売り上げが15%減少し、主要顧客3社の購買量が減った」というレベルでの具体化が理想です。さらに、事象の因果関係についても仮説を持って臨むと説得力が増します。
  • 代替案の準備:単なる問題提起では不十分です。最低でも2〜3通りの対応策を用意し、それぞれのメリット・デメリット、想定されるリスクを整理して提示することが必要です。たとえば「A案ならスピード重視、B案ならコスト抑制重視」といった選択肢を明示し、経営層に判断の余地を与える構成が求められます。
  • 中長期視点の提示:目の前の課題だけでなく、今回の問題が事業の将来にどう影響するかについても言及します。短期的な解決策と、中期・長期的に考えた場合の布石となる対応策の両方を意識することが重要です。特に新規事業は短期成果に一喜一憂しがちなので、「この選択が一年後にどうつながるか」という視点を持つことが、信頼を得るための鍵になります。

 

想定外相談を持ち込むときのチェックリスト

実際に報告する際には、次のチェックリストを活用します。単なる報告ではなく、意思決定支援を意識して準備を進めましょう。チェック項目をひとつずつクリアにすることで、報告の質が格段に向上し、組織内での信頼も高まります。

  • 問題の事実関係と背景をできるだけ簡潔かつ網羅的にまとめているか?特に、発生時期・場所・関係者・トリガー(きっかけ)など基本情報を漏れなく整理しているか確認する。
  • 影響範囲(売上、コスト、スケジュール、人的リソース)を定量化できているか?可能であればグラフや図表も作成し、視覚的にインパクトを伝える工夫をする。さらに、「直近への影響」と「中期的な波及影響」を区別して整理できているかも重要なポイントです。
  • 少なくとも2〜3の代替案を提示し、それぞれのメリット・デメリットを比較できる状態にしているか?加えて、各案にかかるリードタイム(着手から成果までの期間)やコスト感も添えて、経営陣が比較しやすいよう配慮します。
  • 今後予想されるリスクや、連鎖的に発生する可能性のある課題についても整理しているか?リスクの大きさを「発生確率×影響度」で評価し、優先対応すべきものから順に並べ替えておくとさらに効果的です。
  • 報告を受けたその場で経営陣が意思決定できるレベルまで、論点を絞り込んでいるか?あれもこれもと情報を詰め込むのではなく、「最も重要な意思決定ポイントは何か」を明確にし、提案・確認事項を整理することが求められます。

このような事前準備を徹底することで、経営層の負担を減らし、素早い意思決定を促すことができます。さらに、報告後のフォローアップ(進捗共有や追加課題の早期発見)までを見据えて動くことで、信頼性の高い報告者として評価されるでしょう。

それでも想定外は続く:報告者にできる心構え

どれだけ事前に準備を整えても、想定外は必ず発生します。ここで重要なのは、報告者としてどのようなスタンスで臨むかです。以下に、報告者側で持っておきたい心構えを整理します。

  • 焦らないこと:トラブルが発生した瞬間にパニックにならず、事実を冷静に整理することが最優先です。特に新規事業は「トラブル=失敗」ではありません。焦りが判断ミスを招き、状況を悪化させるリスクを意識しましょう。
  • 隠さないこと:たとえ自分に不利な内容であっても、事実を隠さずに正直に伝えるべきです。情報が部分的に欠けると、経営層が誤った判断を下す危険性が高まります。誠実な情報開示は、長期的な信頼構築につながります。
  • 一人で抱え込まないこと:問題を自己完結させようとせず、速やかに上司や関係部署に共有する。早い段階でチームとして対処方針を考えることで、打ち手の幅が広がり、リカバリーが容易になります。報告は「自己弁護」ではなく、「解決志向」で行うことが大切です。

想定外が起きたときに「どう振る舞ったか」は、周囲からの評価に直結します。特に新規事業のように変化が激しいプロジェクトでは、「問題発生=即共有・即対応」が当たり前の文化を醸成していくことが、報告者自身の成長にもつながるでしょう。

まとめ

新規事業における想定外相談は、プロジェクトの健全な成長過程の一部であり、避けられないものです。どれだけ綿密に準備をしても、すべてを完璧に予測し、完全に防ぐことは現実的ではありません。それは新規事業という領域の本質そのものであり、予測不能な出来事にどう対応するかが試される場でもあります。

だからこそ、報告者には「問題をいかに早期に捉え、いかに正確かつ簡潔に伝え、いかに迅速に解決に導くか」が求められます。ここで重要なのは、単に問題を指摘するだけでなく、経営層の意思決定を支援するために必要な情報と選択肢を整えて報告することです。報告者が的確なファクトと解決案をセットで提示できれば、組織全体の対応スピードは格段に上がります。

失敗を恐れるよりも、想定外にいち早く気づき、勇気を持って適切に経営層へ橋渡しを行うこと。それが新規事業における真のリスクマネジメントです。報告の遅れや情報の隠蔽が、後に致命傷となるケースも少なくありません。だからこそ「初期対応の質」が、プロジェクトの命運を分けると言っても過言ではありません。

「完璧な計画」よりも、「柔軟な実行力」と「誠実な報告」が求められます。リスクはゼロにはできませんが、リスクに強い組織文化を醸成することは可能です。そのためには、報告者一人ひとりの行動と意識が極めて重要です。

新規事業という荒波の中で、報告者自身が冷静な羅針盤となり、どんな局面でも組織を力強く前に進める存在になれることを、私は心から願っています。挑戦の先にこそ、真の成長と成果が待っていると信じています。

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