Professional Answers!シリーズ第1弾 – 大企業における新規事業開発編 –
“板挟みイノベーター” 〜 新規事業を成功に導く管理職のための羅針盤
2025年10月のテーマは「継続的イノベーションの仕組みについて考える」です。
新規事業を成功に導く管理職“板挟みイノベーター”からの質問に対して、4名の新規事業のプロフェッショナルに解決策を教えていただきました。
#1 新規事業開発戦略を考える ー石森 宏茂プロ編
#2 新規事業開発戦略を考える ー岩本 晴彦プロ編 本記事
#3 新規事業開発戦略を考える ー原口 悠哉プロ編
#4 新規事業開発戦略を考える ー村松 龍仁プロ編
今月の”板挟みイノベーター”からの質問
立ち上げ5年目の事業責任者をしています。私自身、ほぼ経験の無いところから、手探りで新規事業の立ち上げプロジェクトをなんとか進めて、事業化に漕ぎ着け、5年が経ちました。大成功とはまだ言えないかもしれませんが、事業をひとつ立ち上げて、日々推進するという意味では、会社の中の前例として、成功事例を作れたような気持ちでいます。
一方で、企業活動は永続的に続くわけですので、この一度の成功で満足するわけにはいきません。でも、正直なところ、次のステップをどう進めればいいのか、悩んでいます。上層部からは「さらなるイノベーションを」と言われますが、具体的にどうすればいいのか…。現在の事業の安定的な運営も重要ですし、新たな挑戦も必要だと分かっていても、なかなか踏み出せずにいます。
組織に継続的イノベーションの文化を根付かせたいのですが、大きな変革を起こす権限もなく、どこから手をつければいいのか見当がつきません。次世代の新規事業開発人材を育成したいという思いはありますが、今の業務をこなすので精一杯で、なかなか時間が取れないのが現状です。
できれば他部門とも連携して、全社的なイノベーション推進ができればいいのですが…。ただ、各部門も既存業務で手一杯のようで、積極的に声をかけづらい雰囲気です。かといって、私たちだけで何かを始めるのも難しそうで。
何か新しい取り組みも必要かなとは思っていますが、具体的に何をすればいいのか、アイデアが浮かびません。この状況で、どのようにして組織に継続的イノベーションの文化を根付かせ、次世代の新規事業開発人材を育成できるでしょうか?
第2回目は、岩本 晴彦プロの回答です。
はじめに
「さらなるイノベーションを」と言われても、何から手をつければよいか分からない。ご質問者さまのように、一つの新規事業を立ち上げ、5年間にわたって推進してきた方にとって、「次の一手」が見えないという悩みは、決して珍しいものではありません。むしろ、そのような質問者さまの姿勢こそが、継続的イノベーションの文化づくりにおける第一歩だと私は考えます。
特に大企業においては「前例」となる「事例」の存在が重視されがちです。新しい取り組みでは「事例はないのか?」「前例は?」と問われる場面も多いでしょう。その意味でも、5年間で一つの事業を形にした質問者さまの経験は、社内で共有されるべき貴重な資産です。
本稿では、私自身の経験や学びをもとに、継続的イノベーションを組織に根づかせるための仕組みと文化のポイントを整理します。
イノベーションは「仕組み」で回すもの
継続的イノベーションは、個人の情熱やひらめきだけに依存していては再現性を持ちません。文化として組織に根付かせるためには、経験を形式知化し、関心層をゆるやかに巻き込む仕組みが不可欠です。さらに、「小さく試せる場」「挑戦を評価する仕組み」「共創による多様な視点」を組み合わせることで、挑戦が循環する環境が生まれます。
属人的な成功は続かない
一度の成功体験があっても、それが偶然や個人の力量に依存していれば、再現は困難です。特にご質問者さまのように、ゼロから立ち上げを実現した方ほど、「あの時はなんとかなったけど、もう一度やれと言われても…」と感じるのではないでしょうか。また「あの人だからできた」という言い訳が残るだけになりかねません。
だからこそ、成功も失敗も形式知として共有し、再現性を高める仕組みが必要です。さらに、特定の部署だけにイノベーションを期待するのではなく、兼務や多様な経験人材の活用によって、学びを組織全体に広げることが重要です。
実践から見えた5つの仕掛け
私自身の経験や学びから、継続的イノベーションにつながる仕掛けを5つ紹介します。
1. 人材のシェアと相互学習
新規事業プロジェクトのリソース不足をきっかけに、既存事業の中堅社員を新規事業に兼務で参加させたところ、現場感のある提案が増加しました。その後、その社員が元の部署に戻った際には、顧客志向や仮説検証型の思考が自然と既存事業内に広がり、双方向の学びが循環するようになりました。
2. 経験の共有と“関心層”の巻き込み
新規事業メンバーが成功談だけではなく、失敗談や苦労話を率直に社内共有したところ、「私も参加してみたい」「実は興味があった」という声が次々と集まりました。イノベーションに関心のある社員は、実は静かに存在しているのです。経験の言語化は、仲間づくりの入り口になります。
3. 「小さく試せる場」の設計
社内ピッチ大会や短期プロジェクトなど、”気軽に参加できる”、“少し試せる”環境を設けることで、関心層が一歩を踏み出しやすくなります。小さな挑戦の積み重ねが、次世代人材の育成につながります。
4. 挑戦を評価する仕組み
挑戦には失敗がつきものです。だからこそ、結果だけでなく挑戦のプロセスや学びを評価する制度が求められます。最初に挑戦の海へ飛び込んだファーストペンギンを称えたたえ、失敗を恐れず挑戦できる文化を醸成することが、次の挑戦を後押しします。
5. 共創による多様な視点の導入
社内に閉じていると発想は固定化しがちです。スタートアップや外部のプロ人材との共創によって、新しい技術や視点を取り込むことで、既存の枠を超えたイノベーションが生まれます。
多様な経験人材とリーダー育成の仕掛け
継続的イノベーションを回すうえで欠かせないのは、新規事業と既存事業の両方を経験した人材がその後に果たす役割です。新規事業を経験した社員が元の部署に戻ることで、既存事業に新しい視点を持ち込みながら、次世代リーダーとして成長していきます。
私自身が関わった企業でも、新規事業経験者が数年後には別の新規プロジェクトを率いる存在になったり、既存部門で“変革推進役”として活躍する事例が数多くありました。こうした経験は一時的な配置ではなく、キャリア成長のステップとして機能します。これを仕組みとして設計することで、「挑戦経験が次の挑戦を生む」好循環が組織に根づいていきます。
小さな成功体験を拡散させる方法
継続的イノベーションを支えるのは、個人や小さなチームが積み上げた“成功体験”です。重要なのは、その小さな芽をいかに社内全体に波及させるか。例えば、社内SNSやイントラでの共有、勉強会や交流会での発表を通じて、小さな成果を「見える化」することが有効です。たとえ小規模な実証でも、そこで得られた学びを発信することで、「自分たちもやってみよう」という動きが他部門に広がります。小さな成功を拡散する仕組みを整えることが、組織全体を動かす力になります。
一人の声から、全社の文化へ
継続的イノベーションは、大規模な変革から始まるわけではありません。一つの新規事業を立ち上げた経験を持つ方が、その経験と学びを周囲とシェアし、小さな共感を広げることが文化醸成の種になります。
まずは、自身の経験を内省し、言語化してみてください。「どんな苦労があったか」「何がよかったか」「なぜ乗り越えられたのか」。それを資料にまとめ、周囲に共有するだけでも十分な第一歩です。 社内で関心を寄せる人は必ず存在します。いきなり全社を動かす必要はありません。自分の経験を起点に、「仲間づくり」から始めることが、結果として継続的イノベーションを根づかせる力になります。
おわりに
「さらなるイノベーションを」と求められ戸惑うのは、真剣に取り組んできた証拠です。その戸惑いを言語化できた時点で、すでに次の一歩を踏み出しています。これまでの経験を共有し、関心層を巻き込み、仕組みを整える。さらに新規事業と既存事業の両方を経験した人材を育成し、小さな成功体験を拡散させることで、挑戦が循環する文化が根づきます。継続的イノベーションは偶然ではなく、仕組みと文化によって実現されます。小さな動きの積み重ねこそが、未来を切り開く大きな力となるのです。
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